いちごのヘタ

頭の中にいれておいてもしょうがないこと

メイドカフェ3周。からの気づき

 2020年にもなって他人よりも時間が余っているとなると、自然と頭もおかしくなってくるもので、自分の時間の使い方に強く、それはもうとてもとても強く疑問を抱くような瞬間が訪れる。ペースでいうと尿意と同じような頻度で訪れる。それはもうなかなかに耐え難いものであり、なにかをしないと耐えられないようなウズウズが体を蝕んでいく。だがそんなウズウズでは体は動かないのが自分という人間だ。そもそもこのウズウズで体が動いて行動を起こせるような人間だったら23歳でこんな時間の余り方はしていないはずなのであるから。モラトリアムの期間を使ってじっくり身についた怠け癖の根の深さは、誰かの想像の範疇に収まるようなものではないのだ。

 自身の生活水準を下げないようにアルバイトをこなし、指定された時間割のとおりに学校に体を”運ぶ”。それを繰り返していたときに、ふと自分と同じような境遇の友達から、前フリもなくラインが届いた。

 

 

 

「「「「メイドカフェに行きたいゾ」」」」

 

 

 

 

野暮なことを考える時間はなかった。この文言を見た瞬間からスッと、自分はメイドカフェに行く人間だ。いや、行く必要がある人間なのだ。と思えた。

そのときの自分といったら、飲食店のアルバイトでしゃかりきに業務用食洗機を回しに回した6時間を過ごし、退勤し、体の疲れを痛感していた。そんな帰路で、ふとめちゃくちゃな美人が冴えない男をラウワンのスポッチャコーナーに引っ張っていくようなテンションでラブホに引っ張っていく光景に鉢合わせてしまい、誰も何も悪くないのに、ドバッと言葉にしがたいやるせない感情に包まれてた。

このタイミングでラインの通知を見たこともあるだろう。

もうどうにでもなれ。とにかく行かない、という選択肢はなかったのだ。

 

 誘ってきた友達はテスト前夜であるというのにひっきりなしにメイドカフェの名前をトークに挙げ、それらを経験した著名人のラジオのリンクをせわしなく貼り続けた。あちらのモチベーションはかなり高いのが見て取れる。

候補に上がったメイドカフェには著名なものもあれば、店名を聞いただけで首をかしげたくなるようなものもあった。あとそれに混じってメイドコンセプトのガールバーなのではないか?というものや花魁姿の女の子が働いているお店も候補に上がってきた。モチベーションが高くて本人も意味がわからなくなっている節もあるようだった。

それに対する自分はというと、完全に前に書いた出来事に鉢合わせたショック(あの瞬間の自分にとっては相当ショックな光景だったのだ)に打ち負け、もはや何でもよかった。コスプレした女子が飲み物運んでくれればもうなんでもよかった。とにかく金を使って異性と会話する、をしたい。いまの自分にできるのはこの経験を買うことだけなんだ。そんなレベルまで思考が濁っていた。

 

 翌日、濁った精神を抱えながら互いに義務的に期末テストを終わらせた後、待ち合わせ場所であった華金秋葉原駅に降り立った。このプランの言い出しっぺの友人は自分よりも早くテストを終わらせたようで空き時間があったらしく、一人で宝酒造緑茶割りを呷っていた。

一人だけ”マトモ”を濁らせてメイドカフェという異空間に対応しようとしている。かなり不公平な出だしである…と感じたが、自分も逆の立場であったら間違いなく同じ行動に走っていただろう。すぐに頭を切り替え目的のお店に向かった。

 

 

前日から行っていたラインにより今日のメイドカフェ体験のプランはある程度形にはなってきていて、

・予算は20000円/人(まじで?)

・会計の割合は絶対に50:50

・一つのお店に深くのめり込むのではなく、色んなお店を見て回る。

・無粋な楽しみ方は控える

の4つの決定事項をもとに秋葉原を練り歩いた。

 

秋葉原自体は知り合いが店舗を出していることもあって土地勘は少しばかりだがあった。だがメイドカフェのような店には少しも関心がなく、店の場所は詳しくは知らない現状であったのでGoogle Mapを片手に慎重に目的地を目指す。

街を歩いている人たちは街によってそれぞれ違った色を持っているように思えるが、秋葉原はやはりなにか異質な空気が漂っているように思える。

街を歩く中年男性が他の街よりも尖っていて、いや、違う。他の街では尖ることを許されない種類の人間が尖ることを許されているようで、普段感じえない尖りを放つ人間たちで溢れている。そんな少し肌がピリピリするような、普通に歩いているだけでもある意味緊張するような街でメイドという癒やしを求め、歩いた。

 

 はじめに入ったメイドカフェはここ。

akibazettai.com

自分らが行った店舗は雑居ビルの2階にお店がある店舗で、そのビルのテナントにはなんだかすごくちゃんとしてそうな会社もしっかり入ってて、この会社に勤める人らは必ず通勤する道のりにメイドとご主人様が毎回関わってくるのだろうな。舞浜通って通勤するのと同じぐらい苦痛感じてそうだなー。と思いながら入店。後から思い返してみればこの時が一番ピュアであったかもやしれん。

エレベーターを降りたらもうドア一枚挟んで店舗になっているのだが、どうやらエレベーター前にセンサーがついているらしく、スタスタスタ~~~っとキャストさんがお出迎えしてくれた。これが自分のメイドカフェデビュー、もうすべてが受け流されるがままに入店までしてしまった。

店内を見回すと、座席数は25あるかないかくらいの小規模なお店で、右側には2名がけのテーブル席が6席くらい並んで、左側に4人掛けテーブルが3セットくらいまとまってるような配置。

お店のマニュアルとして、一人でご帰宅()するベテランご主人様のようなオーラをまとっている方々は右のコアゾーン。自分らのような一見アキバ観光客!みたいな方々は左側の団体テーブルゾーンと割り振りが決まっているようで、自分らはちょうどその間にある4人掛けテーブル席。つまりコアとパンピーの狭間、みたいなある意味特等席のような場所に案内された。

パンピーゾーンに座った僕らはパンピーの顔をしてお店の設定をうんうん、と流されるがままに聞いていく。グランドメニューの一番初めのページに書いてあるこの店の”設定”をキャストさんがわりかし丁寧に説明していく。これはここのお店での自分らの立ち位置のインプットでもあるから、こちらもちゃんと聞く。

 

これによると自分らは知らないうちに野良猫を助けていて、その時に助けた野良猫が自分らに恩返しをしたい!と強く願った結果、神様がつくってくれた人間の姿になれる「絶対領域」でお給仕をできることになった!やったぁ!みたいな感じらしく、厳密にいうと彼女らは猫らしい。

ふむふむ。で、この「絶対領域」の中でないと人間でいられないらしい。であるからして下界から来た自分らがキャストさんたちに触ってしまうと魔法が解けてしまって猫に戻ってしまうらしい!大変だー!

 

くらいのテンションで前説と注意事項のインプットが終わった。ここまでの所要時間、だいたい4分程度で、そのときの自分らのテンションとしては完全に置いてけぼりの状態であった。店の内装とキャストさんの前説と、たまに視界に入り込んでくるベテランご主人様たち。4分間くらいで味わえる視界としてはかなり情報量が多いものであった。自分らが望んでこの空間の世界観を味わいに来たはずなのに、完全に置いてけぼりにされているこれはなんなんだ。自分でもこの時はこの違和感を感じることはできたものの、言葉にはできずに流されていったのだった。

 

 さて、ここからやっと注文のターン。飲みすぎたら猫になってしまうらしい「にゃんにゃんウォーター」を一口。脳内が猫になってくれればまだよかったのに効きが悪いようで、比較的健全な一般男性のメンタルのままメニューを選んでいく。

自分らはメイドカフェのメの字も知らないような人間。もう素直にスターターセット的なものを注文していく。スターターセットにはフード、ドリンク、キャストとのチェキがついたものとカクテルがついたものと種類があったので、連れは萌え培養パフェセット、自分は一刻も早くアルコールを入れて、この場になじみたいという気持ちが強かったため、オリジナルカクテルセットを注文した。

 

このカクテルセットには、特典としてキャストさんが自分のためにカクテルを”萌え”を込めて作ってくれる。というものであり、自分の想像としては、ほんとにワイドショーなどでよく見る「おいしくな~れ~」程度のモノであると思っていたのだが、実際はもっと癖の強いものであった。

一般人の感覚でいうと一番想像しやすいものは「シャンパンコール」だ。体感したことはないがあれは確かにシャンパンコールのノリだった。びっくりした。もう自分らには手拍子をするしか選択肢も行動の余地も残されていないのに、コールの復唱と、要所要所でカクテルをおいしくしてくれる”魔法のポーズ”をこちらに提案してくる。え!そういうのってあなた方がやってくれるのでは!と思う余地もなくカクテルは完成した。いや、完成してしまったが正しいのかもしれない。

詳細を述べると、カクテルを作りながら(と言っても実際はシェイカーをマラカス代わりに適当に揺らしているだけなのだが)萌えのコールを唱えていただいてるキャストさんが、こちら側の盛り上がりがあまりに悪かったせいか困惑してしまっていて、それを見た別のキャストさんが助け舟でコールを手伝ってくれたりした。

24席程度のキャパのメイドカフェに常駐しているメイドさんは3人。そのうち2人が自分のカクテルづくりに持ってかれてる感覚はそれを眺めているベテランご主人様たちに非常に申し訳なさを感じるものであったのだが、当のベテランご主人様たちはといったら、お目当てのキャストさんがコールを頑張っている姿に萌えを見出しているらしく、なんと一緒に手拍子をしてくれたり、なかにはコールを手伝ってくれているご主人様も現れるような状況だった。

人数比でいうとキャストさんが2人なのに対して僕らが2人。そして後援団体のベテランご主人様隊が3人いらしたので、合計7人分の”萌え”が込められている計算になるのだが、含まれてる”萌え”のパーセンテージでいったらベテランご主人様たちから込められた”萌え”の分量が一番多いカクテルが完成してしまったのだった。

 

 そんなこんなで萌えのサラダボウル状態になってるカクテル、(多分ジンバック?)を飲みながらベテランご主人さまの立ち振舞を眺めて今後の参考にしようとしていると、いろんなご主人さまハウツーを見つけることができたので、ここで簡単にまとめておく。

第一として、ご主人さま全員に言えることはみんながみんな声がとっても大きい。と、いうか声量があるのだ。

キャストさんたちはいろんなご主人さまを満足させつつ、細かい作業もこなさないといけないのでせかせかと動いているのだが、ご主人さまはそのせかせかの間を狙ってかまってもらいたい生き物らしい。

よく通る声でキャストさんたちの名前を呼んで、自分の卓に意識を向けてもらう技術こそが、ご主人さまを始めるにあたって第一優先で覚えないといけないことであるようだった。

次に重要なことは、なにか”とっかかり”を用意すること。

秋葉原を歩いていると過剰なくらいにサンリオキャラクターや萌えキャラのグッズ、パーカーを装備しているおじさんを見かけることがある。

そういう趣味の人なのかと思いきや、その他のスニーカーやジーンズ、かばんなどは年相応のものであり、そういうグッズが過剰に浮いていたりするものだったので、ずっと自分のなかでは理解できない人種であったのだが、この浮いてるキャラグッズはこういうメイドカフェにとっては強力な武器になるようだった。

多分自分らとキャストさんらの年齢差って±3歳くらいなのだろうけど、それでも会話に困ることはあった。その障壁をさらに年齢差があるベテランご主人様は彼女らが興味ありそうなマスコットという飛び道具で立ち向かっていくのであった。あれは見事なものであったと思う。

でもサンリオキャラのことを饒舌にしゃべるおじさん、というものは素人目に見たらなにか威圧的なものであるように見えた。

 

 そんなこんなで、スターターキットのもう一つの特典。グリーティングタイム。キャストさんとのチェキ撮影があるのだが、ここでも自分がなんの気なしに頼んだスペシャルカクテルの特典が牙をむく。

普通のセットはキャストさん一人と自分のツーショットチェキなのだが、カクテルセットの場合だけ、キャストさん2人と自分のハーレムチェキ、になっているのだ。酒に目がくらんで、自分の耐性以上に過剰なサービスをたくさん受けてしまっている。実に2年ぶりくらいにチェキの被写体になることになってしまい、めちゃくちゃ赤面した。ファインダー越しの世界の住人の感性を少し知ってしまった。そんな申し訳なさも感じつつ、キャストさんとの会話に勤しむ。いや勤しまないと行けないと思うので頑張ってなにかを探し、キャストさんのポケモンのアクセサリーを見つけたのでそれについて一心不乱に喋っていく。なんとか場がもってよかった。撮影後にはこの気持ちが一番強かった。金銭発生させて会話して、この感情が芽生える機会ってそうそうないからある意味貴重な経験であったと思う。

しばらくしたらキャストさんが自分のツイッターのIDや、萌えっぽい落書きをしてくれてチェキを返してくれた。「猫なのにツイッターがあるんです〜〜」みたいな自虐的なネタはやりきれてなかったけど、ちょっとウケた。

そんなこんなで会計。チャージ料とセット2つで5000円ちょっと?相場がこんなもんなのかわからんけど、授業料としてはこんなもんよね〜〜って感じで退店。

 

 自分にとってのメイドカフェデビュー戦。満足度といったら100点満点中60点。ラーメン頼んだらちゃんとラーメン出てきたー!くらいの感想だった。キャストさんもちゃんと体裁保って「恩返しをしたい猫」してたし、それに乗り切れない自分らがいたせいでちょっと困らせてしまったけど。

キャストさんの可愛さもなんかちょうどよかったと思う。可愛くないこともなく、かと言って可愛すぎる!こともなく。こういうのでいいんだよ、みたいになりかけそうだった。けれど同行した友達はそんなに刺さってなかったようで、キャストさんから人間を感じてしまった。役への没入が足りてない。自分らの壁を感じた瞬間にちょっとキャストさん側も冷めてた。などと辛口な評論を繰り広げていた。とても20分前には萌え培養パフェを貪り食べていた人間が言うようなことではない。思わぬところで人間の二面性が垣間見えた瞬間であった。

 

 続いて二軒目に向かう、当初行こうとしていた店舗に向かったら入店までに待ち時間が発生していて、メイドカフェを軽んじていた自分らは並ぶ必要はないだろう。と他の店へ移動。交通規制のカラーコーンのような感覚で設置されている客引きメイドたちを避けながら移動を繰り返していたら、ちょっと外れたところに有名メイドチェーンの本店を謳う店舗があったので、「本店」というワードに惹かれ、またもエレベーターに乗り込んだ。

maidreamin.com

 次に行ったお店はここ。入った瞬間から嫌に静かな感じがした。BGMなどは流れているが人が集まった空間特有のガヤガヤがない。構わずドアを開いてみたら自分らの他にご主人様と呼ばれるべき人がいない状況だった。簡単にいうとノーゲスだ…。もう従業員の姿も見えない…と奥を覗くとメイドの制服の上に今流行のモコモコとしたボアジャンを着込んでスマホをいじってるキャストさんら3人くらいを発見してしまい、「あ、これはやってしまった…」と思わず声に出してしまいそうになるのをすんでのところでとどめた。

あと三秒。あと三秒あれば踵を返してもう一回エレベーターに乗れた。店を変えるか…の判断をするギリギリの瞬間に、奥の3人のなかからおそらく一番キャリアが短いキャストさんが、見てはいけないものを見られた焦りなのか、単に接客に慣れていないのか、やけにたどたどしく座席に案内され、とりあえず二軒目のご帰宅をした。してしまうことになった。

 いやに明るい照明とメルヘンチックな椅子が置いてある空間にいるとは思えないくらい自分らのテンションはだだ下がっていた。

人生で初めて「ぼったくられた」という感情を味わうことになった。まだお店に1円もお金を落としてないのに、ここまで損した気分になれることなんてあるのだろうか。ただただ自分の思考の浅はかさが情けなく感じられ、だからと言ってその状況をどうにか変えてやろう、楽しんでやろう。とかそういう前向きな感情は一切湧いてこない。ただただ、いかに最小の痛手でこの場を切り抜けるか。みたいなことを話しながらメニューを眺めていた。

小学生の頃、「いじめはされた側がいじめ、と感じたらそれはいじりだろうがなんだろうがもういじめである」みたいなことを道徳の授業で教わったことがあった。その当時はなんだその詭弁は?程度にしか感じられなかったが、苦節10年。やっと実感できた。ぼったくりといじめは同じものであった。ぼったくりは消費者側がぼったくりと感じたら価格が適正価格であろうがなんだろうがぼったくりなんだ。ぼったくりはいじめです。

  

 虚無感に浸っていても、店の空気は変わることはなく。座席が50くらいあるメイドカフェに自分ら2人だけが座ってる状態。

途中で自分らと同じ位の熱量でメイドカフェを楽しもうとする外国人観光客2人組も入ってきたが、店の雰囲気を見て自分らができなかったこと、「即時退店」をやってのけていた。この空間が発する自分らが感じた「あ、これはやってしまった…」な空気はもはや言語の壁を超えたワールドワイドなものであった。

 

メニューを眺めて3分くらい。自分らが決めた「最小限の痛手」を注文するためにまたキャストさんを呼び止めた。3人キャストさんがいたはずなのに対応してくれるのはずっと新人ぽいキャストさん1人だけで、メイドカフェの中でも部活動的な上下関係は健在であるようだった。

新人さんがオドオドしながら前の店でも勧められたようなスターターキット的なものを勧めてくるが、もうそんなものには見向きもせずに、メニュー中盤に謎に展開されていた「チンチロリンハイボール」を2つ注文。お店のシステム上チャージ料とワンドリンクが必須になるが、一番安価なソフトドリンクでも600円はする。しかし、このチンチロリンハイボールなら2つのサイコロを降って偶数を出せば、半額の金額でハイボールがいただける。(しかし奇数を出したら倍額でメガジョッキで提供される)というもの。「最小限の痛手」とはただの運まかせでもあった。

 注文も済んだところで、メイドカフェの醍醐味であるメイドさんとのお話タイムが始まったのだが、それを対応してくれるのも全部新人さんなわけで。会話の始まりが「今日はどういった経緯で来店してくれたんですか?」などという企業の面接かと勘違いしてしまうようなコミュニケーションがちょっとツボだったくらいで。

あとは自分らの注文伝票に通したあとに、業務用のボールペンを自分らの卓に忘れていってしまう抜けっぷりで、普通のメイドカフェ体験ならもう大ダメージなはずなのだけど。なんか違うベクトルでその新人さんに愛着が湧きかけてくる自分もいた。なぜならその間も他の2人のキャストの人らは奥でアウターを脱がずにスマホをいじってたのだから。相対的に新人ちゃんが輝いて見えるのも無理はない。せめてバックヤードでやってくれ頼むから。

 チンチロリンハイボールの抽選結果は自分は無事半額ハイボールをゲットできた。しかし友人はというと見事に失敗して倍額メガジョッキに。運まかせは失敗し、結局店側が指定する最低料金を支払うことになってしまった。テーブルの上には大小2つのジョッキにハイボールメイドカフェなのに卓上が一軒め酒場になってしまっていたが、さすがはチェーン店。メガジョッキにもしっかり「めいどりーみん」のロゴがついてて少しだけ笑えた。

注文から30分以上滞在してしまうとチャージ料がまた上乗せされてしまうため、少しペースを早めて飲まないといけないのに、友人がメガジョッキをこちらに押し付けてきたりと一悶着していたら…。やっと、やっと新人さん以外のキャストさんが登場した。新キャラである。なんか風貌からしてベテラン感出てて、多分一番最初にこのひとが対応してくれていればこの店はなんとか体裁は保てたのではないのだろうか…とか思っていたら、ところがどっこいそんなことはなく、結論からいうとただの腐女子

前回のお店で得られた知見として、キャストさんが身につけている”とっかかり”をいじって挙げればどうやら会話には困らない!を実践する機会だ!と思いさりげなく制服についていた鬼滅の刃のグッズについて触れてみたらタガが外れたかのように「推しが尊い腐女子」が溢れ出してきて、あーーもう勘弁してください…。と胃もたれしてしまった。まぁでもタガが外れる前も「ベテラン(というよりかはくたびれた)キャストさん」という感じだったので、ダメージ的には少なかったが、一瞬でも「マトモなキャストさん」を期待した自分が甘かった。

「推しが尊い腐女子」の人に相手してもらってたらやっと自分ら以外のご主人さまが来てくれた!女性外国人観光客二人組!ベテランの人が店内にいるからか、自分らが来たときに一瞬も動いてくれなかった2人がちゃんと動いてご案内!これで自分らも安心して帰れる!!と思いメガジョッキを流し込んで退店。印象に残ってる会話は「私の名前なんか覚えなくていいので、この子!(缶バッチを指差しながら)この子の名前を覚えて帰ってください!サビトって言います!」でした。なんなんだこれは。

最低料金分しか頼んでないのにレジの対応グダグダすぎて最後まで詰めが甘かったが、ちゃんとアルコールがアルコールしてたので、ヨシ!で退店。ハイボールごちそうさまでした!!!!!

 

 帰路のエレベーター乗った瞬間から、店舗にいたときには忘れかけていた感情がぐわっと押し寄せてきた。怒り、文句、懺悔、誹謗、中傷。単語にすればこの5つだろう。この5つをアキバの繁華街でぶちまけ続けた。メガジョッキハイボールがかなりいい仕事してて、2軒目で起きたすべての事柄に文句を言い続けた。あの熱量あればあと20年くらいしたら発電とかできるようになるんじゃないか。そのくらいの熱をもってめいどりーみん本店をなじり続け、なじり続け、結論。最初に行列ができていたお店に行こう!となった。根っこは日本人。行列は正義。マジョリティに成り下がることしかできなかった。

 

www.cafe-athome.com

 

巡り巡って、というかアルコールが入った自分らは歩くのが早くなる傾向があるので本日最高速度でこちらの店舗に到着。ビル全部のテナントがメイドカフェとそのグッズショップとかいうわけのわからない構成をしていて、前に行った2軒のようにエレベーターで鉢合わせた人がバリバリ仕事中の社会人。などということは皆無になっている。このエレベーターに乗るのはご主人さまとお嬢様。それと出勤前後のメイドさんだけなのだ。

3~7階まである建物が全部メイドカフェとして営業しているが、在籍キャスト以外に違いがわからないので、1Fフロントの案内どおりにおすすめされた7Fに向かい、列の最後尾に並んだ。

席数も今までよりも多いが、それに対してご主人さまらとキャストらも、桁違いに多かった。どやどやとしながらテーブルがテーブルごとに楽しんでる様子は映像媒体などで見かけるメイドカフェよりも一層にぎやかなもののように思えたし、中年男性一人と歌舞伎町歩いてそうな女子2人の3人組がご帰宅している様子をみた際には、ついにあのメイドカフェまでパパ活の会場になるものなのか。と諸々新鮮な発見を感じながら待つこと10分弱。パパ活集団の座席が空いたのでそこに案内された。 

 

それから約一時間。結果からすると「萌え」はここにしかなかった。

席についたら担当してくれるメイドさんがシステムと、メニューの紹介をしてくれるのだけども、前に行った2店舗よりもメイドさんのキャラのクオリティが段違い。前説30秒くらいでひねくれた評論家ぶった自我は消え去り、「あ、俺はご主人様だったのだ。長い間この屋敷を留守にしてしまい…申し訳ない…」というありもしないはずのご主人様としての自我が芽生えてくる。なんだかメイドさん永遠の17歳とかよくわからんこと言ってた気もするけれど、疑問を感じた直後2秒くらいでご主人様スイッチが入るほどにメイドさんのキャラのクオリティが高いので「そうそう!永遠に17歳!ガハハ!」のマインドにすぐに変換されてしまう。正直自分でもなんでこんなに全力でメイドカフェを楽しむ姿勢を取れているのかがわからないくらい、体がメイドカフェに対応していってる。今ここにいるのはさのではない。さのの皮をかぶったご主人様でしかなかった。

なんでここまで自分はメイドカフェを楽しむマインドになれているのか、その答えとして自分が導いたものはメイドさんに一切の”隙”がないことだった。もちろん寝癖がついているとか、メイドの衣装がほつれてるとか、そういったことではない。お客の誰しもが持つ”マトモ”の感性。それは自分を常識人で保つのには欠かせないし、日常生活の様々なブレーキを兼ねているものであるのだが、それを麻痺させるほどに隙がないのである。お店がお客様になってほしいものにさせる力をここのメイドさんたちは持っている。そう実感させられた。

 

その証拠に、他のメイドカフェでははじめのインプットの段階で、「キャストへの接触禁止」が口頭で面白おかしく、柔らかく噛み砕いて説明されるのだが、ここは違った。メニュー表の横に小さく記載された禁止事項の項目にはしっかりと明記されていたのだが、メイドさんからの直接の注意はされなかった。それもそのはず。完成した世界観と完成しきった空気の中ではお客の9割は飲み込まれてしまうのだろう。触ってやろうなんて気分もかけらも芽生えることもなく、ただただその空間から享受される”萌え”に浸る以外の選択肢を失ってしまうのだ。

 

すっかり骨抜きになった2人は、もうメニューの説明が終わった段階で浮かれに浮かれきっていた。まだ何も頼んでもいないのにリピート前提で話を進めるくらいには有頂天で、「は〜〜〜〜!」とか「う〜〜〜!」とか声に出してしまっていた。主に自分が。

もうここで頼まずしてどこでこれを頼むんだ!と言ったテンションでメイドカフェと言えばのオムライスのスターターキットと、普段から死んでも頼まない!と固く誓っていた”ピンク色のカレー”のスターターキットを注文。注文をとってくれたメイドさんもなんか知らんが400人のメイドの中から選抜された12人?の一人みたいなかなりレアな人だったのもあり、より隙のないメイドイズムを感じられた。

 

このメイドらしさの高さを例えるのならなんだろう。背もたれがしっかりとしたソファだ。こちら側が全力で体重をかけてもしっかり受け止めてくれる。

今まで行ってきた2店舗はここと比べてしまうと”メイドのなりきり具合”が心もとなくこちら側も恐る恐るでしか歩み寄れないし、体重を思い切りかける、楽しみ方をあちら側に全部投げてしまったら壊れてしまいそうだと感じてしまう。一軒目のメイドカフェで感じた違和感の正体はこれだったのかもしれない。メイドカフェを楽しむにあたり、楽しみ方を考える時間、ラグが生まれてしまうため、店側の世界観に没入できなかった。それを感じさせない徹底的な配役は自分もなにかのシーンで見習う必要があると感じられた。

 

その世界に没入した自分らの時間の経過はもうあっという間だった。ひと目で口パクだとわかるし、表情の作り込みもされていない、高さ30センチほどの小さなステージでのミニライブもこれ以上とないくらいに全力で楽しめた。

ステージに出演していた、スターターキットの特典のチェキを撮るメンバーの一挙手一投足に愛着を持ち、誰に送ったのかわからないレスポンスにも全力で”萌えた”。

オムライスが来ようものなら卵の面積いっぱいに担当メイドのサインをケチャップで入れてもらい、カレーを可愛くするため愛を一緒にこめましょう!と提案されたものならもう率先して愛をこめた。

おかげで自分のカレーはかなりピンクなものになった。これが萌えの力なのか。カレーの入っている容器についた蓋を開ける前に魔法をかけたので、もとのカレーの色は知るよしもないが、メイドさんが魔法の力でピンクになりました!と言ったのならそうなのだろう。ここはそういう世界なのだから。

先程ライブをやってたステージの上でチェキを撮ろうものならもう心はふわっふわ。なすがままに猫耳をつけられ猫のポーズなどをして今日二度目の被写体。人はこんなにも簡単に猫になれるのか。そこににゃんにゃんウォーターは必要なかったのだ。

 

こんだけ全力で楽しんで、お値段2人で6000円とか。今日はじめて「遊びたりねぇ…もっと!もっと!」が芽生えた瞬間であった。浮ついた気持ちが処理しきれずにエレベーターで向かった1〜7階への距離を階段で帰った。自分の推しが3月末に卒業してしまうようで、帰路のなかずっとそれを嘆き悲しんだ。

 

結論、1,2件目に行った店舗のキャストさんはあくまでキャストさんと表記しているが、3件目の店舗に限ってはしっかり”メイドさん”であった。だから今回しっかりとそこは書き分けた。

 圧倒的な配役、役への没入はどの業界でも必ず必要になってくるものなのだろう。人間は多面性が求められる生き物であると同時に、自ずと対する相手にも多面性を求め、その中から最適な配役を演じてほしいと望んでしまう。

いろんな相手から自分の求める相手の一面を引き出すには、自分がその場で求められている配役を全力で演じつくす必要があるのだと今回のメイドカフェ巡りで感じることができた。

自分の配役を全力でやり尽くせば、必ず相手に自分が何をどうしたいかが伝わることであろう。それが伝わってはじめて、相手が自分の描きたい舞台の土俵にたどり着いてくれる。舞台に登壇させてしまえばもうこちらのもの。こちらのエスコート次第でどんな大根役者も助演男優主演賞を受賞させることだって不可能じゃないはずだ。

ステージが高ければ高いほど見栄えは良くなる。高くするのは自分自身なのだ。やらせたい世界があるのなら、その外堀を自分が全力で固めていくしかないのだ。ご帰宅させたいなら、ご帰宅したい空間を作らないといけないのと同じように。

馬鹿なので、3店舗巡ってやっと気がつけた。全員が全員必要なものだったと思う。今度はスナックにでも行ってみたい。