いちごのヘタ

頭の中にいれておいてもしょうがないこと

『さよなら、絶景雑技団』で丁度よい生々しさを感じた

 

 

お笑い、はそんなに好きではない。癖の強い芸人と、そのファンたちが突き詰めようとするとクドく感じてしまうから。

 

ピースもそんなに好きではない。綾部が鼻につくから。

 

だけどピースの又吉さんの著書”火花”という作品はカルト的に好きである。

芥川賞を受賞したから、とかではなくて登場人物が全員人間味溢れていて、夢に向かいもがき、背伸びし、見栄を張るが張りきれない男の惨めさ。自分で自分を縛ることの尊さと窮屈さ。様々な感情がごっちゃになって詰まっているあの世界観がたまらない。映画、ドラマ、書籍、座談会から何からすべてに目を通し、友人との卒業旅行の宿泊先を半ば強引にドラマ版”火花”のロケ地の宿に決定してしまうくらいには”火花”という作品に魅せられていた。

 

今回たまたまご縁があって、そんな”火花”の著者の又吉さんが脚本構成を務めるコント劇「さよなら、絶景雑技団」を初めて観てこれたのだけれども、想像の800倍は又吉ワールドでございましたので、ここに報告いたします。

 

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そもそも「絶景雑技団」ってなに?と聞かれるとピース又吉さんが選りすぐった芸人さん達と共に”絶景”をテーマにしたコントを行うユニットコント集団。としか言えない。実際公式サイトでもそこまでしか書いていないし。

 

公式サイトにはそれに加えて絶景雑技団の団員の名前くらいしか掲載されていないのでほとんど前情報のないままに本公演を眺めた結果、が想像の800倍の又吉ワールド。であったのだ。

 

まず前提として伝えておきたいのが、自分はこの公演を観てかなりの満足感と「面白い!」を得たが、決して息ができないほどの大笑いはしていない。という点だ。

自分の年代層でトレンドになっている笑いは、ガキの使いやドキュメンタルなどで話題になるようなノリと勢いマシマシのインパクト最大重視!のような笑いである。ザコシショウの誇張しすぎたパーフェクトヒューマンとか想像してもらえると一番しっくり来ると思う。

ああいう短時間でドカンと波が来るような、SNSで「クソワロタwwwww」とかいう文言と共に拡散されるようなスタイルの笑いではない。いやそういうのも大好きだけど。絶景雑技団はそういうのではないのだ。

長距離ランナーと短距離ランナーの脚の筋肉の付き方が異なるようにザコシショウらの笑いと絶景雑技団の笑いは多分全く違う脳の動きで作られているのだろうと思う。

卓球で表すならカットマン。ラウンドごとにチマチマチマチマ相手の嫌がるところ突いていって、気がついたら完璧に主導権をあっちに持ってかれてるような笑いの構成なのだ。細かく細かく、日常劇の中に散りばめられたジャブのようなボケ。自分の実体験の中で共感できるものがあってクスッと笑ってハイ終わり。だと思っていたものが40分後にもう一回息を吹き返してくる。しかもそのギャグが息を吹き返してきたころには、そのギャグが一番輝く土壌がステージの上で出来てしまってるんだからもう止まらない。歩兵が金に成る過程を見せられてる感じ。

だって「あの定食屋、実は昔墓場だった」みたいな大喜利のつなぎみたいなボケで自分のツボが刺激されると思いますか?いや、されるんだこれが。

演者が舞台で2分間ぐらいずっとズッコケ続ける様子見て笑えると思いますか?めっちゃ笑えるんだこれが。全部タイミングとジャブ的なサブミナルなボケのせい。

あんだけキレーな伏線回収を見せられるともはや関心すらしてしまって、笑いながら「なるほど!」とか言ってた自分がいた。傍から見たらさぞ気味の悪かったことだろう。

 

加えて、これは”火花”でも言えることなのだが、又吉さんの世界観に登場する男たちが絶妙にリアリティに溢れたものだったのも、前に書いたようなジャブ的ボケがしっかり隠れてサブミナル効果を十二分に発揮できる一つの要因になっているのだろうと思う。

又吉さんの描く男性にはちょうどよいダサさがあるのだ。コントの中でのキャラ設定で必要な露骨なダサさではなく、奥手な男が慣れない異性の前で格好つけようとして急に他所向きの態度を示してみたり、男特有のくだらない自分ルールを貫き通すためだけの必要のない背伸びだったり。とにかくそういう「自然体で出てしまうようなダサさ」を描くが抜群に上手い。

ダサさの中にちゃんと生暖かさがあるから、コントが良い意味で妙に生々しい話に仕上がっていく。

そしてその生々しいコントの世界観をスッとまとめ上げるのが、脚本を仕上げる又吉さん自体の”又吉使い”の上手さでもあると思う。自分自身のキャラクターをステージ上で一番イレギュラーなものに、少しでも刺激を加えてしまったらすぐに爆発してしまうようなニトロ的存在に仕立て上げるテンポがとてつもなかった。席通された瞬間に水とおしぼり用意されてる俺流塩ラーメンの接客と遜色ないレベル。


 

今回、自分としてはほぼ初めて芸人としての又吉さんを観た。

その前まではなんかのバラエティで千鳥とかまいたちと離島でロケしていて、個性的な私服を脱がされ、離島のホームセンターで全身コーディネートされているような様子しか見れて来れなかったので、今回の公演では本当に印象が変わった。彼の脳の中をザーッと眺められたような気分になれたし、”火花”は間違いなく彼から生み出されたものなのだ、と実感させられた。

最後になってしまうが、「絶景雑技団」の公演を観たのに又吉さん以外のメンバーにほとんど触れられていないのが本当に申し訳ない。

ネタバレに考慮するとどうしても語りきれないジレンマ。結果脚本構成を努めた又吉さんべた褒めになってしまうんだよなぁ。

ただ、好井さんマジで山下だった。あの空気感が本当に好きだった。そこだけ。あとは劇場で。しずるの「絶景」はマジで池田ワールドで”しずる感”半端なかった。そんなんできる普通?言っといてや出来るんなら…。っとなりました、しずる半端ないって。あとは劇場で。