いちごのヘタ

頭の中にいれておいてもしょうがないこと

可能な限りの「おめでとう」をかき集めて 2020/09/11

向かいの家の解体工事がまだまだ続く。こうして机に向かっていても、卓上のライトがガタガタと揺れるくらいの振動で家が揺れる。きっと地の奥まで深く根付いた木の根っこでも必死になって抜いているのだろうとみてはいるが、一向にこの揺れから開放されない。小刻みに揺れる家の中で眠り続けることは、本来眠りの浅いタイプの自分からするとかなり難しいもので、決まって工事の開始時間の8時代に目が覚めてしまう。職人さんの生活リズムを強制されているようで、決して気分の良いものではない。

今日の10時頃から、大学の成績の発表が行われる。あと二時間はこのそわそわとした気持ちを抱えていないといけないようで、時間の潰し方に困った。本なんか読もうにも落ち着かないし、かと言ってもう一眠りするにも家が揺れているため難しい。とりあえず、動画サイトで何も考えなくてもみれるゲーム実況を探し、流しながらこまめにSNSを眺めて時間をつぶした。

10時2分。学生が抱いていた、オンライン一貫講義の不安がそのまま回線に集中したかのように、ポータルサイトのサーバーがダウン。10時キッカリには成績を見ることはできなかった。仕方なく、そわそわとポータルサイトへのアクセスをリロード機能を使って繰り返し行いながら、また先例のような薄っぺらい時間を過ごす。Twitterで「ポータル」と検索してみたら案の定同じ大学の人間がヒット。だいたいの人も同じ状況のようだが、1割程度、定刻どおりに成績を確認できている人がいて、同じ学年の人間から注目の的になっていた。

1時間経ってもポータルサイトの混雑は解消されない。腹ごしらえをすることにした。例にもよってナポリタン。Sioが投稿していたレシピで作るようになってから、野菜の仕上がりが段違いに良い。美味しく食べられてしまうので、過剰に野菜をフライパンに突っ込んでしまう。それに加えて、心底不安なことも作用してパスタの量を普段の倍茹でた。実際にできたナポリタンの量は計り知れないものであったが、以外にスルスルと食べてしまった。食べ終わった後にもまた「ポータル」でエゴサ。成績をいち早く見れたユーザーの投稿を見る限り、保護者用のポータルサイトは混雑が少なく、アクセスしやすいとのことだった。5年近く在学していても全く知り得なかったこの抜け道。まさか全く知らない人の投稿で見つけることになるとは思わなかった。その方法で成績を確認する。

残単位は赤字で表示されるシステムの履修状況確認画面。赤字で表示されている数字は”0.00"であった。卒業である。正直信じられない部分もあったが、これで自分の学生生活にピリオドを打つことができたのだ。開放感に次ぐ開放感。心臓の下のほうに引っかかっていた鎖のようなものがスルリと解けたような感覚。成績を確認するまでに賑やかしでつけていた「ドキュメンタル」も今は全く集中できない。何をしようか考えがまとまらないうちに、その開放感のままに様々なところへ卒業の報告を行った。ずっと連絡を取っているライングループに、5年近く身を置いているアルバイト、大学で唯一気を許せた休学中の友人に、高校時代からの腐れ縁の友達。見境なく卒業の報告を行い、可能な限りの「おめでとう」を集めた。

今だけはなんでもできるような錯覚。この、ずっと続けてきた何かから開放される瞬間の気持ちよさって、何にも代えが効かないものであるのだと思えた。転職した人間が、承認欲求のままに書き連ねているような退職エントリも、昔は理解できなかったが、今なら理解できる。この開放感と、次に何かが始まる迄の適度な余暇。それが合わさるとああやって何かを書き残したくなる気持ちもおいに分かる。この感覚を味わうがために、転職なんかも視野に入れるくらいには、この開放感の虜になりそうであった。

時計は13時を回ったところ。この開放感を肴にアルコールを摂取しないなんて、絶対に嘘だ。そんなことがあってはならない。くらいのテンションでスーパーに出向く。動画サイトで見た、ウインナーでビールを流し込む様子が頭に浮かんで、それしか考えられなくなる。精肉コーナーで、少し迷ってシャウエッセンを購入。このハピネスは廉価版のソーセージで濁してはいけない。炭酸水を3本と、レモン、氷をカゴにガシガシ突っ込んで、レジに向かう。完全昼飲み仕様の買い物カゴをパートのおばちゃんに見せるのは少し気が引けたが、そんなことすらも小さく感じられた。

人は暇になると空を眺める生き物なのかもしれない。ひと月前に眺めていたら「嫌味なくらいに青い空」であった青空が「いつにもまして深みを感じる青空」になっていた。自転車を飛ばして自宅に帰宅して、丁寧にレモンハイボールを作ってウインナーを茹でる。安定のパリッと感。たまらない。酒を飲む。陽気な感情が時間経過に比例して増大する。ドキュメンタルを眺めていたが、そんな気分ではなくなり、部屋のカーテンを閉めて、できるだけ部屋を暗くして大音量でグループイノウを流して、何も考えずに体を揺らした。一人ディスコ。これぞ感情が漏れ出すってことなのだろうか。20分くらい大音量で音楽を流して、踊り尽くした後に、酒が回った体を休めていたらそのまま寝落ち。ここまで何も縛られずに過ごした3時間足らずの時間は久々であったな。

夕食を食べながら、家族今までの時間を労われる。成績もレポート重視であったためか異常に高い評価を得られた。こういう文章の積み重ねが少なからず自分の自力になっているのだとしたらこれ以上に嬉しいことはない。そこの部分を的確に労ってくれた父親に感謝。

21時頃に、幼馴染からの飲みの誘いが。またも自転車を飛ばして合流。元カノとのサシ飲みに参加する形。自分の卒業と、バイト先の話をネタにして賑やかした。今日足りていなかった他の人との会話ができたので満たされる。3杯しか飲んでいないがちゃんと酔っぱらえた。なんだかんだで今日一日でかなり飲んだな。田舎にしては明るい夜空を酔いどれながらも信号待ちで眺める。夜空に隠れきっていない大きな入道雲。またも見とれてしまった。入道雲が最近の自分の琴線にどストライク。