いちごのヘタ

頭の中にいれておいてもしょうがないこと

価値のない勝利

自分が本当に心の狭い、小意地っ張りな人間であるがゆえに、苦労したことはあるだろうか。

先日の自分がそれだった。その苦労は容赦なく消化器官を痛めつけ、先程まで大学の数少ないトイレの個室を占領するハメとなっている。

 

ーーーーーーーー

蒙古タンメン「中本」というラーメン屋さんをご存知だろうか。

おそらく関東平野に住んでいる人間なら必ずといって認知はしているであろう激辛ラーメン店。「からうまラーメン日本一」の名に恥じない異常なくらいに真っ赤なラーメンを提供してくれるラーメンチェーンだ。自ら「からうま」を自称するだけあってその辛さは折り紙つき。看板メニューの「蒙古タンメン」は本格的で具だくさんな味噌タンメンに一味の良く効いた麻婆豆腐がかかった赤みがかったラーメンで十分な刺激を残しながらも箸が止まらない絶品であり、多くのマニアに支えられているラーメンだ。

f:id:rokuro332:20190416002810j:plain

うまい。

 

 

蒙古タンメン」の辛さは、中本が示している辛さケージでは星10個中の星5つ。オーソドックスな辛さではあるのだが、常人、いや自称辛党の人間にも十分なくらいにはハードな辛さである。しかし、中本にはさらにその辛さの上を行くラーメンが存在するのだ。

そのラーメンの名は「北極」

看板メニューの味噌タンメンのスープは原型がないくらいに唐辛子で赤く染まり、タンメンの具は辛さをダイレクトに味合わえるようにと最適化され、赤いスープで煮込まれているであろう豚肉とにんにくスライス、そしてこのラーメンの名前の由来になったであろう「北極」の流氷を連想させるようなスープの赤に点在する茹でモヤシのみで構成された真っ赤なラーメン。

これで着色料が使用されていないのが不思議なくらいに、赤いのだ。その辛さはただ唐辛子をぶち込んだものではなく、スライスされているにんにくの刺激や豚肉の旨味などが混じった非常に食欲を増進させるもので、食べるたびに体が刺激に打ちひしがれるが決してやめられない「なにか」が潜むラーメンである。辛さゲージは星9つ。さらに上があるのだがそれは冷やしメニューなので、スタンダードなラーメンメニューではこれが一番辛いものとなっている。

f:id:rokuro332:20190416002857j:plain

もっとうまい。

 

自分はこの「北極」のヘビーユーザーであり、時間さえあれば真っ赤な看板を目指す生活を送っている。母親が作るラーメンよりも多く「北極」を腹に入れている。といっても過言ではないだろう。

 

そんなラーメン限定の実家とも言える「中本」での食事に、この頃ノイズが混じりこんできたのだ。

 

そのノイズというのは、大きなくくりで言えばカップル。そういってしまえば簡単なのだが、そう書いてしまうとただ単に非リアの妬みのように聞こえてしまうので訂正させてほしい。”激辛マウントカップル”だ。

別にただ純粋に辛いものを食べたいだけのカップルや男女グループが中本に来店しようものならそう目くじらはたてないし、わざわざブログで1000文字近くラーメンチェーンの話なんかしない。でもなぜかはわからないが、無視できない類の激辛マウントを繰り広げる男に遭遇する確率が最近上がってきているのだ。

さて、さっきから通じて当然みたいに使用している”激辛マウント”とはなんぞや?というのをこれから説明していくわけなのだが、これは大体が「(おそらく韓国ブームに便乗しているであろう)辛党を名乗る女性と飯を食べにいく口実を作るために中本をデートスポットにしようとしてくる男が、なんかやたら通ぶって中本を解説しながら”君より辛いもの食べれちゃうボク”を演じる」現象である。

縄文時代から、いやヒトがまだヒトではなかった時代から引き継がれているオスの意思がそうさせているのかは知らないが

「ここの辛さは一味ちがうからなぁwww」

「最初は蒙古タンメンがデフォだと思うwww」

「上にかかってる麻婆豆腐がさぁwww普通に辛いからさぁww」

とかなんとか口八丁を駆使して辛さゲージ5の蒙古タンメンを女性側に購入させ、それを確認するとしめしめと言わんばかりに常連ぶり「北極ラーメン」の食券を購入する。

この瞬間に、「連れの女の子よりも辛いものを食べる俺」の構図が出来上がる。

さぁここからはマウントマンの独断場。

いざラーメンが提供されようものなら辛さケージ5の蒙古タンメンを箸にも棒にもかからないようなコメントを述べながら食べる女性をヨイショしつつ得意げに北極を啜る。んで半分くらい食べたあたりで丼を交換して彼女に北極ラーメンを食べさせたあたりでもうチェックメイト

「意外と最初は辛くないんだけど、あとからクルるんだよねwww」

なんて一言かまして激辛ラーメンの800倍くらい激辛マウントを味わって満足げに紙エプロン外して帰っていくのだろう。お店側はマウント取った分マウント手数料みたいのもらってもよいのではないだろうか。まぁそいつら大体食べるの牛とかシマウマ並に遅いので完食後の姿は見てないから想像になってしまうが。何?人間て恋人できると消化器官の面積増えたりするん?あたらしいバクテリアとか、腸内で生成されるん?

それをやられてる女性も女性のほうでなんかもう、そのテンプレみたいなトークに飽きることなく、むしろその激辛マウントを男側に堪能させてあげるのが淑女の嗜み、と言わんばかりに全力でノッてあげてるのがなんかこう、自然と眉間にシワが寄っちゃうわけで。

お前、ぜってぇそのやりとり別の男でもやってるんじゃねえか?ってくらいにスムーズ。ラブホのでっけえ風呂見たときの「わ〜〜〜っ」みたいな演技くらい既視感あるからそれ。中本でラブホをしないでくれ。

蒙古タンメン食べてからの「意外とイケる〜〜〜!」からの男の北極もらって「あっ〜〜っ!結構辛い!」からの「バターとか入れたらちょうどいいかもね!」のちょい足しアドバイスまでみんながみんなやる。ananで特集組まれてるんじゃないかってくらいきれいなルーティーンと周知度。なんなんだそれ俺もその特集読みたい読ませてほしい。

 ……これ、結構着色入れてるように見えちゃうんですけど、実際中本ユーザーにこの話したらめっちゃ共感されるくらいにあるあるなシーンでして、もううんざりでして、実家のような安心感を感じるラーメン屋が自然とセミデートスポットみたいになりつつあるのがマジで居心地悪い。実家帰ったら兄弟が恋人連れてきてるみたいなそんな感じ。自分の部屋いるだけなのになんかめっちゃ気使うやつ。トイレ行こうとしたらなんか鉢合わせちゃって変なふうに会釈とかするやつ。ここ、俺んちぞ???の感覚。

 

もちろん自分がマイノリティなのは百も承知。マウントカップルも卑屈な自分も一人あたりの単価はそれほど変わらないし、占領してる座席面積も変わらない。店側にもなにも迷惑かけているわけではないのだから、異分子であろうと客は客なのだ。自分は一生あの茶番に鉢合わせながら、見てみぬふりをして日本一のからうまラーメンをすすり続けるのか。そう諦めかけていたときに、一つの圧倒的で感動的な理想的超えて完璧なただ一つの解決策が思い浮かび、先日それを実行した。

自分があのマウントカップルの何が腹立つのか、って考えたときに「辛い料理を出す店に来店しているのにそこで連れより辛いもの食べてドヤ顔かます茶番」という一点がやはりキーであった。その現象はそのマウント男がそのテーブル周辺で一番辛いものを食している、という状況であるからマウントをとれるわけであって、そいつよりも辛いものを食べている存在がいればその男の一強空間が破られる。

 

それなら話は簡単だ。そいつらの隣に座っている男、すなわち自分がそいつよりも辛いメニューを注文してしまえば良いのだ。食券を出すときにこの一言を添えるだけで、全てが集結する。

 

「あ、辛さ3倍に増してもらえますか???」

 

中本の店員はやたら声がでかい。恐らく研修がよほど厳しいのだろう。だからラーメンを提供するときにも注文をすべて復唱してくれるので、こういうちょっとしたチャレンジ的なコールをすれば自然と視線が集まるものなのだ。

北極ラーメンの辛さ三倍になります、ご注文以上でよろしかったですか?」

店員のこの言葉に自分以上に先に隣の席の激辛マウントカップルが反応する。身内同士で顔を見合わせたり、一瞬会話が止まったり。これを見られたらもうこっちの狙い通り。今、ここに完璧な中本が完成した。

店員の声かけにさも当然、と言うようにスンと頷き、落ち着いた様子で麺を口に運ぶ。意外と食える。ついでにスープをすする。唐辛子の量が増えているからか心なしかジャリのような食感もある。スープなのに。あ、これかなり辛い。だが食べれる、旨味を、感じられる。隣のマウントカップルの会話が少しガタついている、そのガタツキが旨味を引き立たせる。他人の不幸で飯が上手いってこんな感じなのかな。多分違うと思うけど。

しばらくしてマウントカップルの側にもラーメンが届く、前にも書いたようなセットでお得な気もするマウントセット。蒙古タンメン北極ラーメン。もはや書くまでもないがそいつの北極ラーメンの辛さは自分のラーメンの三分の一、自分の食べているものに比べてみればもう離乳食も同然の食べやすさであろう。そんな離乳食を片手に、カウンター場で一番辛いものをモクモクと、真摯に口に運んでいる汗だくの男の隣で上に書いたような「激辛マウント」が成立するわけもなく、かと言って自分のような赤の他人のラーメンをその会話に入れるわけにも行かず、完璧に、隣の激辛マウントを未遂に終わらせることができた。

辛いものを食べれるから偉いということはないし、オスとして優位に立つ要素でもない。だから、やめろ。そういうよくわからない茶番を自分のホームでやるな。そう念じながら食べる辛さ三倍北極ラーメンはやはり普段の三倍辛かったが、その辛さの中にあのマウントを封じ込めた自分にしかわからない達成感がトッピングされていたのは確かだ。

 

 

そしてラーメンを完食し、店を出たときに思う。

 

激辛マウント、幸福度数高いな。と。ミイラ取りがミイラになるとはまさにこのこと。まぁやってるのが全くの赤の他人だし、、同性だし…とか言い訳をこぼしながら中一日腹痛に苦しむのであった。