いちごのヘタ

頭の中にいれておいてもしょうがないこと

雨の日の帰路の12分

昨日公開されたテラスハウスに見入っていたらどうも昼食を取りそこねてしまった。新メンバーは男性経験がほぼない清楚そうな大学生とSKYMARKの社長の息子。どちらも嫌味なくらい顔は整っている。

同い年であるはずなのに、産んだ人と住処でこうも人生変わってくるものなのかと思いつつ、少し遅めの昼食としてたぬきうどんを口に運ぶ。

自分はこのたぬきうどんを週に4回、つまり登校日にはかならず口にするのだが、そう毎日頼んでいると食堂の麺担当のおばちゃんが気を利かせて、普通より1.5倍増し程度揚げ玉をサービスしてくれるようになった。

揚げ玉のトッピングは単体だと60円で販売されているので、毎日おばちゃんから30円分の愛想をいただいていることになる。最初のうちこそ嬉しかったものの、モノにはやはり限度というものがあるようで、スープが通常の1.5倍オイリーに感じる。正直普通の量に戻してほしいのだが、あちらも好意でやってくれてるし断るわけにもいかないので今日も過剰にカロリーを摂取する。

そんなこんなで胃もたれを感じながら食堂を出て帰路につくと、唐突にパシーーーン!と何かを叩くような音が背後に響いた。何事なんだこれはと思いながら振り向いてみると、どうやら講堂の自動ドアが締まりそうだったところを、学生が無理やりドア開けようとして自動ドアをビニール傘で叩いてこじ開けたらしい。

ビニール傘って案外頑丈なんだなぁと思いつつ、そのパシーーーンの音が気に食わなかったので耳にイヤホンを詰めつつ正門を後にした。

住宅街に沿った通学路をなんとなく歩いていてもどうも気が重い。これだから梅雨は嫌いだと雨傘で片方手がふさがりながら歩いていると、スタスタと自分を抜かしてくるヒップホップ風な服装の男子学生。

なかなか強い雨なのに傘もささずにひたすら突き進む。天気予報を確認していなかったのだろうか、にしても今日は朝からずっと雨のはずだ。行きはどうしたのだろう。そして視線は手元のスマートフォンに釘付けである。雨の中画面も濡れるだろうがそれにかまうことなく何かを凝視しながらズンズン進む。

そんな彼とはどうやら目的地は違ったようで、抜かされて少ししたら脇道にそれてしまった。

それからしばらく歩くとなんだかどうも嫌な臭いが自分の傘の中に立ち込める。自分は鼻が利くほうなのでどこかの住宅の魚用グリルかなにかの煙の臭いかとも思ったがそうではなかった。

どうも前方を歩いている二人組の「菅田将暉になりたい系男子」と表現すればおそらく伝わるであろう二人組。その左側に陣取る金髪があるきながらタバコを蒸しているのだ。

おそらく最近吸い始めたであろうソレを大事そうに右手にかまえて少し歩いては丁寧に口に運び、一定のルーティーンで煙を吐き出す。その姿はどうもぎこちなく、それでいて世田谷区からは突き放されていて、雨降る住宅街のなかでイレギュラーとして点在し続けて自分の目を奪った。

彼が吐き出した副流煙はそのまま路上で行き場を失い漂い続ける。漂っている道路は自分の帰路でもある。副流煙に意図せず突っ込んでいったらあの例の嫌な臭いが傘の中に充満する。

思わぬ二次災害に遭いながらも同じ道を歩かないといけない運命を呪いつつ、同じ道を歩いては定期的に傘を揺らして中に溜まった副流煙を逃がす。だがその作業も前方の彼が喫煙を終わると同時に済み、何事もない世田谷の帰路に戻ると思いきやそうもいかない。

やはり彼は最近タバコを初めてみたライトユーザーなのだろう。吸いきったというにはまだまだ長い吸い殻は火の処理も満足に行われないままに道の角にポイ。と捨てられていた。

普段は特に気にもとめないが今日は雨。なんか知らんけど気持ちもノスタルジックであったし、よきせぬ副流煙をもろに浴びすぎてて少しそのタバコの吸い殻になにか関係性を感じてしまった。

一年半前くらいから履きつぶしたマーチンの3ホールでまだ熱を帯びているであろう吸い殻をギュッ、と踏みそのままグリグリと踏み潰して道にこすりつけた。火を消すのなら踏むだけでも十分間に合っていたのだろうが、目の前を歩いていた常識はずれの金髪にぶつけるのが正しいはずの憤りもこめて、グリグリと押し込んだ。

吸い殻から足を離し、日の消え具合を確かめていると後ろからスタスタとまた誰かに追い越された。

先程脇道にそれたヒップホップ風の学生が変わりもせずにスマートフォンを凝視しつつまた自分を通り過ぎた。今度は傘を持ちながら。